電気料金の燃料費調整額とは?これまでの価格推移や計算方法について詳しく解説

燃料費調整額とは、発電に必要な燃料の価格変動を電気代にコンスタントに反映させるための料金です。その単価は原油等の貿易統計価格に応じて計算されています。
燃料費調整額は毎月変動しており、燃料価格が上がればプラスに、下がればマイナスになって電気料金の調整を行います。
記事のポイント
- 燃料費調整額は発電に使う燃料の価格変動を電気料金に反映させるための料金で、1か月ごとに変わる
- 多くの電力会社が燃料費調整額を設定しているが、中にはこれと違った独自の料金を設定している電力会社もある
- 大手電力会社の規制料金プランでは、燃料費調整額に上限が設けられている
燃料費調整額とは?
燃料費調整額とは、発電に使われる燃料の価格変動を電気代に反映させるために設定されている料金です。
日本では発電の7割以上を火力で行っており、火力発電に必要な燃料(原油・LNG・石炭)のほとんどを輸入に頼っています。そのため、世界情勢に応じて起こる燃料価格の変化に耐えられるように、「燃料費調整制度」が導入されました。
これは、燃料価格の変動に応じて「燃料費調整額」を定めて電気料金に加算・減算することで、燃料価格の変化をコンスタントに電気料金に反映させるシステムです。
燃料費調整額の単価は「電気の使用1kWhにつきいくら」という風に設定されており、毎月変動します。

料金表に掲載されない燃料費調整額
燃料費調整額は毎月変動することもあり、電気料金プランの料金表には掲載されていません。別途公式サイトやマイページなどで毎月公開されています。
料金表にはないため、見落としがちな燃料費調整額ですが、これによって電気料金の高い・安いがかわる場合もあるため、電力会社を比べるときは忘れずにチェックしましょう。
なお、セレクトラの料金比較では毎月の燃料費調整額も含めたうえでシミュレーションを行っています。
燃料費調整額はどうやって決められているの?
燃料費調整単価は、燃料(原油・LNG・石炭)の貿易統計価格に基づいて計算されます。
これら燃料の3ヶ月間の貿易統計価格から「平均燃料価格」を算定し、この「平均燃料価格」と、各電力会社の定める「基準燃料価格」の差分に基づいて、単価が決定されています。
基準燃料価格よりも平均燃料価格が高ければ燃料費調整単価はプラスに、低ければマイナスになります。
また、3ヶ月間の貿易統計価格は、2か月後の燃料費調整額として反映されるサイクルとなっています。

東京電力「従量電灯B」の2024年6月分の燃料費調整額を例に確認しましょう。
東京電力の基準燃料価格は86,100円です(2024年6月時点)。
2024年6月分の燃料費調整額に反映されるのは、2024年1~3月の貿易統計価格です。当期間の貿易統計価格から計算された平均燃料価格は54,400円でした。
平均燃料価格が基準燃料価格よりも低いため、マイナス調整となり、燃料費調整単価は-5.80円*となります。
基準燃料価格 | 86,100円 |
平均燃料価格 (2024年1~3月の貿易統計価格に基づく) |
54,400円 |
燃料費調整単価 | -5.80円* |
*国の電気料金激変緩和措置の値引き(-1.8円)を含まない金額。値引き反映後は-7.6円

燃料費調整額はどの電力会社にもあるの?
大半の電力会社は電気料金の中に燃料費調整額を設定しています。一方で、中には燃料費調整額を設定していない電力会社もあります。
ただし、どの電力会社においても電気の調達には必ずコストがかかりますし、そのコストは絶えず変動しています。
ですので、燃料費調整額を設けていなくても、それに相当する料金を設けている電力会社がほとんどです。
例① Looopでんき |
Looopでんきでは、燃料費調整額を設けていない代わりに、日本卸電力取引所(JEPX)における電力の取引価格に応じて電力量料金が30分ごとに変動します。 ![]() |
例② 楽天でんき |
楽天でんきでは、燃料費調整額の代わりに「市場価格調整額」を設けています。楽天でんきの市場価格調整額も、Looopでんきと同様に日本卸電力取引所(JEPX)における電力の取引価格に基づいて計算されています。 ただし、楽天でんきでは1か月ごとに市場価格調整単価を設定して電気料金の調整を行っています。 |
燃料費調整額の上限って何?
基本的に燃料費調整額は、燃料価格が上がればその分だけ単価が高くなります。しかし、大手電力会社の規制料金プランにおいては、燃料費調整額に「上限」が設けられています。
大手電力会社とは? |
北海道電力・東北電力・東京電力・中部電力・北陸電力・関西電力・中国電力・四国電力・九州電力・沖縄電力のこと。電力自由化前からあり、それぞれの電力エリアで独占的に電気の供給をしていた電力会社。 これ以外、電力自由化後に参入した電力会社は「新電力」と呼ばれる。 |
規制料金プランとは? |
大手電力会社が電力自由化前から販売している電気料金プラン。一般家庭向けには「従量電灯」や「低圧電力」などがある。消費者保護の観点から国によって管理されているプランで、料金改定に経産省の認可が必要だったり燃料費調整額に上限があったりする。 なお、規制料金プラン以外は「自由料金プラン」と呼ばれ、各電力会社が料金を自由に設定できる。 |
燃料費調整額を設定している多くの新電力*は、同じ電力エリアにある大手電力会社の規制料金プランと同じ基準で燃料費調整額を計算しています。そのため、同じ電力エリア内であれば、通常時の大手電力会社と新電力の燃料費調整額は同じです。
*ただし、オクトパスエナジー「グリーンオクトパス」のように別の基準で燃料費調整額を算定している場合もあります。電力会社比較の際は燃料費調整額もご確認ください。セレクトラの料金シミュレーションでは燃料費調整額反映後の比較をご覧いただけます。
しかし、仮に燃料価格がぐっと高騰した場合、新電力の自由料金プランでは燃料費調整額も高騰し続けるのに対して、大手電力会社の規制料金プランにおいては一定の金額で燃料費調整額の値上がりがストップします。
上限があるなら規制料金プランの方がお得?
燃料価格の動向によります。
なぜなら、基本的に自由料金プランの方が規制料金プランよりも安くなるように価格が設定されているためです。
燃料費調整額が上限を超えていなければ、自由料金プランの方が電気料金が安くなる確率が高いといえます。

燃料費調整額の推移
最近の燃料費調整額はどのように推移してきたのでしょうか?先ほどと同じく東京電力の従量電灯Bを例に確認しましょう。
※東京電力・従量電灯Bの場合
このグラフを見ると、以下の傾向を見て取ることができます。
- 2022年8月~2023年12月:一定の高額で停滞
- 2023年1月~5月:大きく減少のうえ、一定の額で停滞
- 2023年6月~:大きく減少
- 2024年7月・12月:大きく増加
なぜこのような状況になったか、過去数年間の電力市場の動きを追ってみましょう。実は、上記の3つは以下の3つの出来事と連動しています。
ウクライナ侵攻に伴う燃料価格の高騰
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に伴い、世界的な燃料取引価格の高騰が起こります。これに伴って各電力会社の燃料費調整額も高騰しました。
東京電力「従量電灯B」の燃料費調整単価も高騰していますが、それが2022年8月以降一定額で高止まりしています。これは、規制料金プランである従量電灯Bの燃料費調整額が上限値に達したためです。
国の電気料金激減緩和措置
2023年1月以降の燃料費調整単価がぐっと下がっているのは国による電気料金の値引き措置によるものです。
ウクライナ侵攻に伴った例外的かつ長期的な電気料金の値上がりに対して、国は2023年1月から「電気・ガス価格激変緩和対策事業」として電気料金の値引きを開始しました。
当事業による電気料金の値引きは徐々に減額され、2024年5月使用分への値下げ適用をもって一旦事業は終了となりました。しかしその後、補助金事業は2024年8月~10月使用分まで再開。さらに2025年1月~3月使用分に対しても再び適用されています。
2024年7月・12月頃に燃料費調整単価が値上がりしているのは補助金が減額・停止するタイミングと重なっているためです。
政府による補助金事業 |
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2023年1月~9月使用分 (2023年2~10月検針分) |
7.00円引き /kWh |
2023年10月~2024年4月使用分 (2023年11~2024年5月検針分) |
3.50円引き /kWh |
2024年5月使用分 (2024年6月検針分) |
1.80円引き /kWh |
2024年8~9月使用分 (2024年9~10月検針分) |
4.00円引き /kWh |
2024年10月使用分 (2024年11月検針分) |
2.50円引き /kWh |
2025年1~2月使用分 (2025年2~3月検針分) |
2.50円引き /kWh |
2025年3月使用分 (2024年4月検針分) |
1.30円引き /kWh |
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各電力会社の料金改定
上記のグラフにおいて2023年6月以降の燃料費調整単価が下がったのは、東京電力が電気料金の改定を行ったためです。
大手電力会社による規制料金プランの料金改定
長期的な燃料費の高騰を受けて、全国の大手電力会社10社すべてが2023年4月から6月頃にかけて規制料金プランの改定を行いました。
基本料金・電力量料金が大幅に値上げされたのと同時に、燃料費調整額の算定基準も改定されました。これによって燃料費調整単価は上限値を突破しにくく、高くなりにくくなったのです。
大手の燃料費調整額が高くなりにくくなったのはなぜ?
大手電力会社では、燃料費調整額を決定するために「基準燃料価格」をあらかじめ定めています。
燃料費調整額は、この「基準燃料価格」と、実際の燃料価格(平均燃料価格)との差額を差し引きする形で徴収されます。こうすることで、電気の原材料となる燃料の調達コストを実際の電気代に反映できるわけです。
詳しい計算方法としては、
- 「基準燃料価格」よりも「平均燃料価格」が高くなった場合:「実際の燃料価格ー基準燃料価格」をプラス調整(電気代が高くなる)
- 「基準燃料価格」よりも「平均燃料価格」が安くなった場合:「平均燃料価格ー基準燃料価格」をマイナス調整(電気代が安くなる)
という方法で計算されます。
2023年6月以降、燃料費調整額が実質的に値下がりしたのは、燃料費調整額の計算に用いる「基準燃料価格」が引き上げられたからです。
例えば東京電力の場合、基準燃料価格は以下のように変化しました。

例えば、平均燃料価格が5万円の場合、
旧体系だと燃料費調整額がプラス調整になり、電気代が高くなりますが、
新体系だとマイナス調整になり、電気代が安くなります。
このように、基準燃料価格を引き上げたため燃料費調整は安くなりました。
※ただし、中部電力・関西電力・九州電力では、他エリアの大手電力会社と比べて値上げ幅は小さく、託送料金分の値上げに留まりました。また、この3社においては燃料費調整額の算定基準の改定も行われませんでした。よってこれらの地域の燃料費調整単価は現在も上限値付近で推移しています。