原料費調整額とは?これまでの価格推移や上限の撤廃、計算方法について詳しく解説
原料費調整額とは、都市ガスの原料(LNG等)の価格変動をコンスタントにガス代に反映させるための料金です。
原料費調整額は毎月変動しており、原料価格が上がればプラスに、下がればマイナスになって都市ガス料金の調整を行います。
都市ガスの原料費調整額とは?
原料費調整制度は、都市ガスの原料であるLNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)の価格変動をガス料金に速やかに反映させるための制度です。
日本では都市ガスの原料となるLNGやLPGの大部分を海外からの輸入に頼っています。これらの原料購入にかかるコストが為替レートや国際原油取引価格の影響を受けて常に変動するためです。
ガス会社は原料コストに応じて毎月、ガス使用1㎥あたりの原料費調整単価を設定します。この単価はコストが安ければマイナスに、高ければプラスになって、私たちが毎月支払っているガス料金に原料コストの変動を反映させています。
ひと月あたりのガス料金 = 基本料金 +(基準単位料金 ± 原料費調整単価) × ガス使用量
原料費調整額の目的
原料費調整額は都市ガスを供給する事業者と都市ガスを使用する消費者の両方を保護するために設けられています。
もし原料費調整制度がなくてガス料金が一律で設定されていた場合、原料コストの高騰が起こると事業者の経営がひっ迫しやすいため、事業破綻のリスクが高まるでしょう。また、このようなリスクを避けるため、事業者はガス料金を高めに設定するようになるでしょう。事業者・消費者の双方にとって不利益ですね。
原料費調整額が設定されていることによって、事業者は基準となる料金設定を頻繁に変更することなく、小幅な値動きを原料費調整額によって調整できるメリットがあります。
そして、消費者はコストの変動がコンスタントに反映された、いわば適正な価格でガスを利用することができます。
原料費調整額はどうやって計算される?
原料費調整単価は、原料(LNG・LPG)の貿易統計価格に基づいて計算されます。
まず、原料の3ヶ月間の貿易統計価格から、「平均原料価格」を算定します。次に、この平均原料価格と、各都市ガス会社の定める「基準平均原料価格」の差額に基づいて単価が決定されます。
原料費調整単価は「平均原料価格」が「基準平均原料価格」よりも高ければプラスに、安ければマイナスになります。
こうして算出された単価は、算定期間の最終月から3か月後のガス料金に反映されます。
東京ガス(東京地区)の2024年6月検針分の例をみてみましょう。
東京ガスの基準平均原料価格は57,250円です(2024年6月時点)。
2024年6月分の原料費調整額に反映されるのは、2024年1~3月の貿易統計価格です。当期間の貿易統計価格から計算された平均原料価格は98,910円でした。
平均原料価格が基準平均原料価格よりも高いためプラス調整となり、原料費調整単価は37.06円*となります。
基準平均原料価格 | 57,250円 |
平均原料価格 (2024年1~3月の貿易統計価格に基づく) |
98,910円 |
原料費調整単価 | 37.06円* |
*国のガス料金激変緩和措置の値引き(-7.5円)を含まない金額。値引き反映後は29.56円
原料費調整額はどのガス会社でも同じなの?
原料費調整額は、それぞれのガス会社が自由に設定できます。
ですが、実際は供給エリアごと*に同じ計算方法が用いられていることがほとんどです。
*東京ガスエリア(関東)・大阪ガスエリア(関西)・東邦ガスエリア(中部)など
というのも、都市ガス自由化後に参入した新ガス会社の多くが、そのエリアにある大手都市ガス会社と同じ方法で原料費調整額を計算しているためです。
これは毎月金額が変わる原料費調整額がガス会社ごとにバラバラだと消費者がガス料金を比較しづらい、という観点によります。
つまり、基本的には同じエリア内であれば原料費調整額はどの都市ガス会社でも同額、ということになります。
ただし、原料価格が高騰するとこの状況が変わります。これには、各ガス会社の原料費調整額に対する上限設定の有無が関わっています。
次で詳しく確認しましょう。
原料費調整額の上限とは?
原料費調整額の上限は、正確に言うと単価の計算に使われる「平均原料価格」に対して設けられています。
原料費の高騰によって平均原料価格が上限を超えた場合、上限額に基づいて原料費調整単価を計算する、というしくみです。
例えば東京ガスでは上限が156,200円と定められています。この場合、仮に平均原料価格が200,000円だったとしても、原料費調整単価の計算には上限値の156,200円が用いられる、というわけです。
つまり、原料価格が高騰を続けても、原料費調整単価の高騰は一定額でストップする、ということになります。
このように、原料費調整額の上限はガス料金の急激な価格上昇を避ける役割を果たしています。
原料費調整額に上限を設けているガス会社は?
原料費調整額に上限を設けているのは、都市ガス自由化前からガスの供給を行っている、いわゆる大手都市ガス会社です。
一方で、自由化後に参入した新ガス会社のほとんどは上限を設けていません。また、大手都市ガス会社でも、料金プランによって上限があるプランとないプランに分かれていることがあります。
そのため、原料価格が高騰した場合は、同じエリア内でも、上限があるガス会社(≒大手都市ガス会社)と上限がないガス会社(≒新ガス会社)の原料費調整額に差が出ることになります。
エリア | 事業者・プラン名 | 基準平均原料価格 | 上限額 |
---|---|---|---|
関東 | 東京ガス(一般料金) | 57,250円 | 156,200円 |
東京電力(とくとくガスプラン) | 57,250円 | 上限なし | |
関西 | 大阪ガス(一般料金) | 64,090円 | 177,860円 |
関西電力(なっトクプラン) | 64,090円 | 上限なし | |
中部 | 東邦ガス(一般料金) | 83,350円 | 133,360円 |
中部電力(カテエネガスプラン1) | 83,350円 | 上限なし |
原料費調整額の推移
これまでの原料費調整単価がどのように推移してきたか、東京ガス(東京地区)を例にとって見てみましょう。
このグラフの動きに関連して、都市ガス市場では以下のような出来事がありました。
ウクライナ侵攻に伴う原料価格の高騰
グラフを見ると、2022年上半期に原料費調整単価が徐々に増加を始めています。これは、ウクライナ侵攻に伴って原料の取引価格が高騰したことによります。
東京ガスの原料費調整単価は2022年7~9月にかけて一定で停滞しているのがわかりますが、これは単価が上限額に達したためです。
この時、上限のない会社との差額は以下のようになっていました。
事業者・プラン名 | 上限の有無 | 原料費調整額(円/㎥) |
---|---|---|
東京ガス(一般料金) | あり | +30.56円 |
東京電力(とくとくガスプラン) | なし | +35.90円 |
上限額引き上げ・撤廃の動き
「2022年7月に東京ガスの原料費調整単価が上限に達した」と先ほど説明しましたが、2022年10月~2023年1月にかけて単価が再び急増しています。
これは、東京ガスが原料費調整額の上限額を引き上げたためです。
原料価格の高騰が長期的に渡ったことから、この時期は大手都市ガス会社においても原料費調整額の上限の引き上げや廃止を行う動きが見られました。
事業者名 | 適用開始時期 | 変更内容 | 対象プラン |
---|---|---|---|
東京ガス | 2022年10月分~ | 原料費調整額上限の段階的な値上げ。最終的には2023年3月以降上限が156,200円に設定された | 一般料金、ずっともガス、湯ったりエコぷらん、暖らんぷらん、エコウィルで発電エコぷらん、エネファームで発電エコぷらん、その他法人向けの料金プラン含む |
北海道ガス | 2022年10月分~ | 原料費調整額上限の廃止。2023年3月検針分までは上限を超えた分に対して50%までを算定対象とする限定処置があった | 家庭用・業務用のすべての料金メニュー |
国のガス料金激減緩和措置
2024年2月の単価が急に下がったのは、国がガス料金の値引きを開始したためです。
ウクライナ侵攻に伴った例外的かつ長期的なガス料金の値上がりに対して、国は2023年1月から「電気・ガス価格激変緩和対策事業」を開始しました。
値下げ額は徐々に小さくなっており、2024年5月使用分(6月検針分)への値下げ適用をもって一旦事業は終了となりました。グラフでも、再び単価が上がっていることが見て取れますね。
2023年1月~9月使用分 (2023年2月~10月検針分) |
30円引き /㎥ |
2023年10月~2024年4月使用分 (2023年11月~2024年5月検針分) |
15円引き /㎥ |
2024年5月使用分 (2024年6月検針分) |
7.5円引き /㎥ |
2024年6月使用分 (2024年7月検針分) |
0円引き /㎥ |
しかし、政府は新たに「酷暑乗り切り緊急支援」を打ち出し、8月使用分から3か月間補助金給付が再開されました。値引き額は以下のとおりです。
2024年8~9月使用分 (2024年9~10月検針分) |
17.5円引き /㎥ |
2024年10月使用分 (2024年11月検針分) |
10円引き /㎥ |
したがって、8月使用分(9月検針分)~10月使用分(11月検針分)の単価は再び値下がりしています。
原料価格が高くてもガス代を節約する方法は?
東京ガスの例を見ると、原料費調整額はウクライナ侵攻直後より落ち着いているものの、2022年当初ほど安くなってはいません。
原料価格が高くてもガス代を安くしたいと思ったらどうすればよいのでしょうか?
ガス代を安くしたいと思ったら、ガス会社の切り替えを検討してみるのがおすすめです。
原料費調整額が上限に達さなければ、大手都市ガス会社よりも新ガス会社の方がガス代が安くなる場合がほとんどです。
お住まいのエリアにある新ガス会社をチェックしてみましょう。
都市ガスの原料費調整額に関するよくある質問
質問1:原料費調整額って何? |
回答1 都市ガスの原料であるLNGやLPGの価格変動をガス料金に反映させる制度に基づいた料金です。 |
質問2:原料費調整額はガス代にどのように反映されるの? |
回答2 3か月間の原料価格の平均から変動額が算出され、算出期間の最終月から3か月後のガス料金において原料費調整額としてガス代に反映されます。 |
質問3:原料費調整額はどのガス会社も同じなの? |
---|
回答4 通常の場合であれば、同じエリアの大手都市ガス会社と新都市ガス会社の原料費調整額は同額です。しかし、原料価格が高騰すると、上限設定の有無によって原料費調整額に差が出る場合があります。 |
質問4:原料費調整額は値上がりしているの? |
回答4 2022年、ウクライナ侵攻によって原料費調整額が高騰しました。2024年はその当時よりも価格が落ち着いています。 |