IEAが「史上最大のエネルギー危機」と警告—4月は3月よりも悪化する、日本人の想像を超える深刻さ
中東情勢の悪化を背景に、エネルギー市場が急速に不安定化している。国際エネルギー機関(IEA)のトップは、現状について「4月は3月よりさらに悪化する可能性がある」と警告しており、事態はすでに新たな局面に入ったと見られている。
本記事では、海外メディアですでに報じられているIEAトップのファティ・ビロル氏の最新の発言を中心に、現状を把握していく。
国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)とは?
IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)は、第1次石油危機後の1974年に、キッシンジャー米国務長官(当時)の提唱を受けて、OECDの枠内における自律的な機関として設立された。事務局所在地はパリ。事務局長は、ファティ・ビロル(Dr. Fatih Birol)。
メンバーは日本を含む31か国。EUはオブザーバー。
石油供給の大半を外国に依存する日本は、供給途絶の際、IEAの緊急時対応システムにより裨益(ひえき)するところが大きく、IEAは日本のエネルギー安全保障上、極めて重要。
引用元:外務省トップページ > 経済外交 > 経済上の国益の確保・増進 > エネルギー安全保障 > 国際エネルギー機関(IEA) > 国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)の概要
「4月に何も積み出されていない」——3週間沈黙したビロル氏の警告
国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は、4月13日にワシントンのアトランティック・カウンシルで行った講演で衝撃的な事実を明かした。
3月に市場に届いた石油は「危機が始まる前に積み出されたもの」であり、4月に入ってからは中東地域で一隻の積み出しも行われていないというのだ。
during the month of April, nothing has been loaded…
ビロル氏は3週間にわたってメディアへのコメントを控えてきたが、その理由を「この危機の規模が正確に理解されていないことがむしろ危険だ」と感じたからだと説明した。※1
「4月は3月よりもエネルギー市場および世界経済にとって厳しい月になるだろう」とビロル氏はアトランティック・カウンシルの場で述べた。現在の原油価格はすでに1バレル100ドルを超えているが、ビロル氏はこの価格さえ「前例のない供給危機の深刻さを十分に反映していない」と指摘し、「価格が収束していくのはは時間の問題であり、それは世界経済にとって極めてセンシティブな問題だ」と警告した。※1, ※2
- ※1 Euronews(2026年4月14日)│The largest energy security threat in history' is about push oil prices further up, IEA warns
- ※2 Atlantic Council transcript(2026年4月13日)│Fatih Birol: The IEA is ‘ready to act’ with additional releases of reserves if needed
史上最大——過去の危機をすでに凌駕した数字
ビロル氏はこの危機を「史上最大のエネルギー安全保障上の脅威」と表現した。その根拠は明確な数字にある。1973年の第1次石油危機では約500万バレル/日、1979年の第2次石油危機でも約500万バレル/日の供給が失われた。この2回の危機は多くの国をリセッションに追い込み、深刻なインフレと途上国の債務危機を引き起こした。
「現時点で、世界は最大で日量1,300万バレル規模の供給障害を抱えている。明日はさらに拡大する可能性がある」とビロル氏は述べた。
またガスについても、ロシアによるウクライナ侵攻時の危機(約750億立方メートル)をすでに上回る水準に達していると指摘した。※2
As of today, we lost thirteen million barrels per day even as of today. Tomorrow may be bigger. In terms of gas, Russia’s invasion of Ukraine, we lost about seventy-five [billion cubic meters (bcm)], and today we are much higher than that.
さらに今回の危機は石油・ガスだけにとどまらない。肥料・石油化学製品・ヘリウムといった世界経済の基盤を支える物資の物流が同時に止まっている。OPECの生産量は3月単月で789万バレル/日減少し、2,079万バレル/日まで落ち込んだ。ホルムズ海峡周辺の緊張により輸送リスクが高まり、積み出し自体が不可能になったためだ。※1
80件超の施設損傷——「明日戦争が終結しても元には戻らない」
IEAによれば、監視する中東の80件以上のエネルギー施設(油田・ガス田・精製所・ターミナルなど)がダメージを受けており、そのうち3分の1以上が深刻または非常に深刻な損傷を負っている。ビロル氏は「たとえ明日すべてが解決しても、復旧には最大2年かかる国もある」と述べた。財政力の乏しい国ほど復旧に時間がかかるという非対称な問題もある。※1, ※3
It may take some time, maybe up to two years.
- ※3 AA通信(アナドル通信社)(2026年4月13日)│Plus de 80 installations énergétiques endommagées par la guerre au Moyen-Orient
「免疫のある国はない」——日本・韓国への影響は深刻
ビロル氏は地域別のリスクを列挙した中で、「日本と韓国は石油だけでなくLNGへの依存度が高く、深刻な問題に直面する」と明言した。またヨーロッパについても、特にジェット燃料とディーゼルの深刻な不足が生じる可能性を警告している。「この問題から免疫な国はない。すべての国が影響を受ける。ただ程度の差があるだけだ」とビロル氏は断言した。※2
特に懸念されるのが輸入依存度の高い新興国・途上国だ。イラクでは国家歳入の90%超が石油輸出に依存しており、失われた輸出収入は国民5,000万人の給与・年金に直結する。インフレ加速・通貨安・財政悪化が政治的不安定へとつながるリスクは、エネルギー危機が同時に人道危機でもあることを示している。※2
IEAの対応——史上最大の備蓄放出と「第2弾」の準備
IEAはすでに3月11日、史上最大となる4億バレルの緊急備蓄放出を発表した。この発表直後に原油価格は1バレル18ドル下落した。日本も独自に石油製品の放出を実施している。しかしビロル氏は「これは解決策ではなく、痛みを和らげる措置に過ぎない」と釘を刺す。現時点では放出分の4倍にあたる80%の備蓄が手つかずで残っており、「必要な状況になれば即座に第2弾を行動する準備はできている」と述べた。※2, ※4
同日、IEA・IMF・世界銀行の3機関による新たな国際調整枠組みの設立も発表された。IMFは最大500億ドル(約7.5兆円)、世界銀行は今後6か月で最大600億ドルの資金拠出を表明している。※1
「分散化」が唯一の解——1970年代危機が生んだ教訓の再現
ビロル氏は「エネルギー安全保障のゴールデンルールは分散化だ」と強調した。供給元・エネルギーの種類・輸送ルートのいずれも一極集中を避けることが不可欠だという。1970年代の危機が原子力発電の大規模建設・北海油田の開発・自動車の燃費革命という3つの変革を生んだように、今回の危機も再生可能エネルギーの加速・原子力(小型モジュール炉含む)の復権・電気自動車の普及促進へとつながる可能性が高いとビロル氏は見ている。※2
「今後のエネルギー安全保障は、コストと技術力だけでなく、パートナーの信頼性で決まる」——ビロル氏のこの言葉は、単一ルートへの依存リスクを改めて日本に突きつけている。
- ※4 ロイター通信(2026年4月13日)│IEA stands ready to tap global oil reserves if needed, chief says