「普通のLED」はもう古い?欧州における“太陽光”への回帰と、日本人が知らない体への影響
自宅の電球が切れたとき、あなたは何を基準に新しいものを選んでいますか?おそらく、多くの人が「電気代の安さ」や「長持ちすること」を理由に、迷わず一般的なLED電球を手に取っていることでしょう。
しかし、数年前から欧州を中心に「光の質」の重要性が高まっています。というのも、毎日浴びている光は、知らないうちに我々に様々な影響を与えているからです。
従来のLEDの影響とは何か、そして今注目されている新しい照明の特徴とは何かについて詳しく解説します。
「ただ明るいだけ」はもう古い?照明市場の変化
これまで長い間、照明技術の進化は「いかに少ないエネルギーで明るくするか」という一点に集中してきました。白熱電球から蛍光灯、そしてLEDへ。この進化のおかげで、私たちの電気代は劇的に下がり、電球交換の手間も減りました。これは間違いなく人類にとっての勝利です。しかし、欧州の照明デザインの現場では、数年前から別の議論が行われています。
それは、「私たちが浴びているLEDの光は、本当に人間に適しているのか?」という根源的な問いです。実は、普及している安価なLED照明には、自然界の光(太陽光)とは決定的に異なる「不自然なバランス」が隠されています。欧州の研究者やデザイナーたちは、この人工的な光のバランスが、知らず知らずのうちに私たちの目や脳にストレスを与えている可能性に気づき始めました。
従来のLEDが抱える「見えない欠点」
一般的な白色LEDの光をプリズムに通して分解してみると、太陽光とは全く違う波長の形をしていることがわかります。多くのLEDは、青色のLEDチップをベースに黄色い蛍光体を被せて「擬似的な白」を作っています。そのため、どうしても「青色(ブルーライト)」の成分だけが鋭く突出してしまうのです。
この「青色の突出」と、本来あるべき「赤色の不足」は、私たちの生活に微妙な違和感をもたらします。
- 食事が美味しくなさそうに見える:赤みの成分が足りないため、肉料理や新鮮な野菜の色がくすんで見えてしまう現象です。
- 肌色が優れない:鏡で自分の顔を見たとき、実際よりも顔色が悪く、不健康に見えることがあります。
- 目の奥が疲れやすい:鋭い青色のピークはエネルギーが強く、網膜への刺激となり、眼精疲労の一因とされています。
目が喜ぶ光の秘密。「フルスペクトル」という解決策
そこで今、欧州を中心に注目を集めているのが「フルスペクトルLED」と呼ばれる新しい技術です。これは、従来のLEDのように「青と黄色だけで白を作る」のではなく、紫から赤まで、太陽光に含まれる虹の7色すべての波長を、可能な限り忠実に再現しようとするものです。
なぜこれが「目に優しい」と言われるのでしょうか。その理由は、光の「谷間」を埋めることにあります。
私たちの目は、光の波長が滑らかに連続しているときに、最も自然にピントを合わせることができます。しかし、従来のLEDには、青色のピークの隣に、光の成分が極端に少ない「波長の谷間」が存在します。脳と目は、この不自然なギャップを補正しようとして無意識に微調整を繰り返し、それが知覚できないレベルの疲労の蓄積につながると考えられています。
フルスペクトルLEDは、この谷間を埋め、太陽光のように滑らかな波長を実現しています。これにより、水晶体を動かす筋肉への負担が減り、長時間本を読んだり作業をしたりしても、「なぜか疲れにくい」という感覚が得られるのです。
照明の「質」を見分ける簡単な指標が「平均演色評価数(Ra)」です。Ra100が太陽光と同じ見え方です。一般的なLEDはRa80程度ですが、光の質にこだわった製品はRa90以上、特に優れたものはRa95以上をマークしています。次に電球を買う際は、パッケージの裏にあるこの数字を探してみてください。
「HCL」人間中心の明かりが、体内時計を整える
この「太陽光に近い光」を求める動きの背景には、欧州で標準化されつつある「HCL(Human Centric Lighting:ヒューマンセントリック照明)」という設計思想があります。日本語では「人間中心照明」と訳されます。
これは、単に空間を照らすのではなく、「光を使って人間のホルモンバランスを整える」という医学的なアプローチです。人間は数百万年の間、太陽のリズムと共に進化してきました。朝の強い光で目覚め、夕焼けの赤い光で眠くなる。この原始的なリズムを、現代の室内環境で再現しようというのです。
従来の青みが強いLEDを夜間に浴び続けることは、脳に対して「今は昼間だ!」という誤ったシグナルを送り続けるようなものです。これでは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が抑制され、眠りの質が下がってしまいます。
夜のリビングや寝室で、昼白色(青白い光)の明るい照明を使い続けていませんか? これは就寝前の脳を過剰に覚醒させ、自律神経を乱す大きな要因です。夜は、夕日のような温かみのある電球色で、かつ少し暗めの照明に切り替えることが、翌日のパフォーマンスを高める鍵となります。
有機ELというもう一つの選択肢と、これからの選び方
フルスペクトルLEDと並んで、ハイエンドな市場で注目されているのが「有機EL(OLED)照明」です。スマートフォンの画面などでおなじみの技術ですが、照明として使う場合、LEDのような「点」ではなく「面」全体が発光するのが特徴です。
面で光るため、強烈なまぶしさ(グレア)がなく、影がふんわりと柔らかくなります。まるで曇り空の日の優しい自然光のような光質は、究極の「目に優しい光」と言えるかもしれません。現在はまだ価格が高く、寿命もLEDに比べると短いという課題がありますが、美術館や高級ホテルのラウンジなど、光の質が最優先される場所での導入が進んでいます。
- 太陽光LEDのメリット:色が正確に見える、文字が読みやすい、体内時計が整う
- 有機ELのメリット:まぶしくない、影が柔らかい、デザインが薄く自由
投資すべきは「電気代」よりも「健康」かもしれない
「たかが電球ひとつで、そんなに変わるの?」と思われるかもしれません。しかし、私たちは人生の多くの時間を人工照明の下で過ごしています。その光の質が、毎日の目の疲れ、食卓の彩り、そして夜の睡眠の深さに直結しているとしたら、照明選びは立派なヘルスケアの一部と言えるのではないでしょうか。
欧州で始まった「太陽光回帰」のトレンドは、単なる流行ではなく、人間本来の生活リズムを取り戻そうとする本質的な動きです。次に電球が切れたとき、あるいはデスクライトを新調するとき、ワット数や価格だけでなく、「この光は心地よいか?」という視点を持ってみてください。その小さな選択が、あなたの毎日の快適さを劇的に変える第一歩になるはずです。