【セレクトラが解説】欧州(ヨーロッパ)の電力自由化事情
【セレクトラが解説】欧州(ヨーロッパ)の電力自由化事情
電力自由化の先進国が集まっているヨーロッパ。電力自由化の経験者であるヨーロッパにおける現在の電気料金事情を調べてみました。
- ヨーロッパではEU主導で電力自由化が進められてきました。
- ヨーロッパでは10年以上前から電力自由化が行われています。
- フランス、スペインなど電力自由化が行われた国で何が起きているかご紹介します!
目次:
ヨーロッパにおける電力自由化の流れ
ヨーロッパ では欧州連合(EU)市場統合の一環としてEU電力自由化構想が1987年に提唱され、EUの政策執行機関である欧州委員会(EC)の政策提言に基づき、1996年から2009年にわたり 電力自由化 のためのEU電力指令(電力市場統合のための共通ルール)が3回発令されました。
現在ではEU加盟国の各国とも、EU電力指令に基づく電力システム改革を終了しています。
電力自由化のためのEU電力指令
第1次電力指令(1996年) |
第2次電力指令(2003年) |
第3次電力指令(2009年) |
小売:部分自由化 |
小売:全面自由化 |
ネットワーク部門:所有権/機能分離 |
ネットワーク部門:会計分離 |
ネットワーク部門:法的分離 |
ヨーロッパ における 電力自由化 の目的は、 国境をまたいだ欧州単一エネルギー市場の構築、 競争および効率化の促進、 供給保障の増大であり、他国が取り組んでいる国および州レベルの電力システム改革とは大きく異なるのが特徴です。
ヨーロッパ初の電力自由化はイギリス イギリスでは1947年および1957年の電気法によって定められた発送配電と小売を垂直統合した体制で、国営による電気事業が営まれていました。しかし、1960~1970年代に陥っていた英国病の克服のため、1979年の選挙で政権を握ったサッチャー内閣が政策の1つとして国有企業の民営化をスタート。EU電力指令より前、 ヨーロッパ 諸国の中でもっとも早く 電力自由化 が進められることになりました。この民営化政策は難航したため、最終段階として1990年に改めてイギリスでは電気事業の再編・民営化が行われています。
電力自由化によるヨーロッパ電力事情の変化
電気料金の値上がり
2016年の 電力全面自由化 にわたしたち日本の消費者が一番期待しているのは、市場競争が促進されて電気料金が値下がりすることでしょう。
ヨーロッパ でも1990年代後半の 電力自由化 開始後、電気料金は一時的に安くなりました。
しかし、2003年以降にはガス燃料価格の高騰や環境コストの転嫁、再生可能エネルギー買取費用の負担などによって、イギリスおよびドイツでは電気料金が1997年の約1.6倍まで値上がりする事態に。
一方、国の政策として原子力主体の電源構成を進めていったフランスなどは、燃料価格高騰の影響を受けにくいため 電力自由化 後も電気料金はほぼ横ばいとなっています。
出典:ユーロスタット(Eurostat)「2013年度上半期EU諸国における一般消費者(消費電力量2500〜5000kWh/年)平均電気料金(税込)」
電力供給予備率の低下
電力自由化 後にも停電を引き起こさないためには、電力消費量と発電量のバランスを一瞬たりとも崩してはならず、発電所の故障などに備えたバックアップ用の発電設備(供給予備力)をあらかじめ確保しておくことが重要です。
ただし、供給予備力はバックアップ用の設備のため、通常はあまり発電を行っておらず、売電収入が発生しません。
ヨーロッパ 、特にイギリスでは、 電力自由化 によって発電部門の競争が激化したために収入を生まない発電設備の削減が進んでおり、将来的に適正な供給予備力が不足するという課題に直面しています。
新たな規制導入の必要
ネットワーク部門の分離と発電・小売の 自由化 を進めている ヨーロッパ の一部の国では、 電力自由化 によって生まれた競争により短期的視点にたった経営をせざるを得なくなり、燃料価格変動の影響を受けやすい発電構成となるとともに、中長期的な発電供給力の不足が懸念されています。
また、 ヨーロッパ 各国で再生エネルギーの導入拡大による電気料金の上昇や発電調整力の不足という問題も顕在化してきています。
イギリスでは、これらの 電力自由化 後の課題に対応するため、次のような新たな電力市場改革法案が提案されています。
- CO2排出権価格の下限値の導入による課税強化
- 差額決済型の再生エネルギー固定価格買取制度
- 新設火力発電所のCO2排出性能基準の導入
- 容量市場の導入