OpenAIは誰のもの?:イーロン・マスク買収劇・ソフトバンクGの巨額出資が示すOpenAIの新たな展開

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2025年2月、米実業家イーロン・マスク氏によるOpenAIの買収提案が大きなニュースとなりました。OpenAIは対話型AI(人工知能)サービスのChatGPTの開発企業です。その買収提示金額は974億ドルにのぼるとされていますが、OpenAIの最高経営責任者(CEO)サム・アルトマン氏が「(自分達は)売り物ではない」とコメントし、最終的に提案を拒否しました。

今回、マスク氏が買収提案に踏み切った理由は、2024年12月に発表されたOpenAIの営利企業化への反対意識によるものでした。「OpenAIはオープンソースでかつてのように安全を重視した姿に戻るべき時が来た。我々はそれを実現させる」とマスク氏は弁護士を通じて主張しています

終止符が打たれたように思われた今回の騒動ですが、マスク氏がOpenAIの営利化差し止め請求を出すなど、対立は今も続いています。マスク氏のOpenAI非営利運営へのこだわりと、営利化によるOpenAIが目指す未来について解説していきます。

イーロン・マスクとOpenAIのこじれた関係

イーロン・マスク氏は、2015年OpenAI創設時の立ち上げメンバー11人の中の一人です。しかし、後に経営方針の違いから同プロジェクトを離れます。表向きには「マスク氏が所有するテスラ社でもAI開発をしており、将来的に競合関係になりうるから」とされていましたが、実際はマスク氏が自身のOpenAIのCEO就任、もしくはテスラ社との合併を要求したことが発端で、2018年にOpenAIとの決別が余儀なくされたということが後に明らかになりました。

その後もマスク氏はAIの発展に強い関心を抱き続けており、OpenAIを離れた後も自身の運営する会社でAI開発を続けてきました。そして、今回の買収提案はその延長線上にあります。その背景には、今やマスク氏の競合となったOpenAIの営利化による更なる発展への焦りがあったと言います。

OpenAIはオープンではない?ガバナンスの複雑化

「すべての人類にAGI(汎用人工知能)が利益をもたらすこと」をミッションとして、2015年にOpenAIは非営利団体として設立されました。しかし、当初の予想をはるかに上回る莫大な開発費がかかることが分かると、2019年に営利子会社「OpenAI LP」を設立。「キャップトプロフィット型」(利益上限型)の特殊な組織構造を取ることにしました。

OpenAIの組織構造
OpenAIの複雑な組織構造。
引用:「Our Structure」 (2025年4月4日時点、OpenAI) https://openai.com/our-structure/
※青字の翻訳はセレクトラによる

非営利団体のコントロールのもとで、利益目的の子会社を運営する構造に対し、ガバナンスの問題や「オープン(open)」という名との矛盾が指摘されるようになりました。特に、OpenAIの安全性を重要視する取締役会は事態を深刻に受け止め、共同創業者兼CEOのサム・アルトマン氏を解雇しています。その後、アルトマン氏は社員の署名により退任から5日後に復帰するという異例の事態となりました。

現在も、OpenAIは「オープンソース」と「クローズドソース」の両方を取る形で運営しています。ただし、中国の新興AI企業で完全オープンソースモデルを実践するDeepSeekの台頭を受け、アルトマン氏は「OpenAIには新たなオープンソース戦略が必要である」ともコメントしています。

ソフトバンクグループ巨額出資による営利企業化の加速

2024年12月、OpenAIは更なる開発の加速に向け、資金調達を目的に、営利主動型への完全転換を発表しました。これに異議を唱えたのが、2025年2月に買収提案を持ちかけたマスク氏でした。現在AI分野で最も注目されるOpenAIの更なる成長は、同じくxAIにてAI開発に取り組むマスク氏にとって脅威となったのは当然のことです。

2025年3月31日、日本のソフトバンクグループはOpenAIに最大400億ドル、日本円で最大約6兆円にものぼる巨額の追加出資を発表しました。ただし、OpenAIが年内に営利企業化できない場合、出資額が200億ドルまで減額される可能性があります。当初、OpenAIの営利企業化を2年かけてすすめる計画でしたが、今回の資金調達を受け、その時期は早まる可能性が高いと言えるでしょう。

OpenAIの目指す未来とは?

現在、ChatGPTは世界で5億人に利用されていると言われていますが、その9割が無料利用者です。
これは、営利企業化を目指すOpenAIにとって好ましい状態ではないのかもしれませんが、一方で「全人類に利益をもたらすAGI(汎用人工知能)」という設立当時のミッションを考慮すると、あるべき姿ともいえるでしょう。

注目したいのは創業時から出資をし、アルトマン氏がOpenAIを解雇された際に引き抜いたとされているマイクロソフトの存在です。ロンドンの業界分析企業であるCSS insightのアナリストは「OpenAIは3年以内に資金繰りに苦しみ、マイクロソフトに売却せざるを得なくなるだろう」と予想しています。

今回のソフトバンクグループ出資において、OpenAIの企業価値は3,000億ドル(約44兆円)とされています。その評価額はマスク氏が率いる米国スペースXの3,500億ドルに次ぐもので、世界で最も高く評価された非上場企業のひとつとなります。

ユニコーン企業リスト
「ユニコーン企業」と呼ばれる、企業価値評価額10億ドル(約1,500億円)以上のスタートアップおよび非上場企業のリストより抜粋。今回のソフトバンクGの出資で企業価値3,000億円と評価されたOpenAIは、TikToKを運営するByteDanceと並び、Xspaceに次ぐ世界2位につくことになる。
引用:「The Complete List of Unicorn Company」 (2025年4月4日時点、CBINSIGHTS)https://www.cbinsights.com/research-unicorn-companies

AI開発上層が激化する中、OpenAIが独立性を維持できるのか、それとも競合や出資者の圧力に屈してしまうのか。今後の動向が注目されます