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インドの電力会社を調べたら驚いた|発電の半分は民間、ムンバイは配電網が2本

Rei Rei 更新日:
2026年8月31日、キルギス・ビシュケクで開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議の場で、インドのモディ首相とロシアのプーチン大統領が会談しました。モディ首相は「戦争に費やされる一日一日が人類を後退させる」と述べ、ウクライナでの戦闘終結に向けた平和的な解決を促しています。ロシアとの関係や世界経済における存在感で、いま改めて注目を集めているインド。そこで電気・ガスの専門サイトとして、インドの「電気」を調べてみました。すると、発電設備の半分以上を民間企業が持っているという、ちょっと意外な事実が出てきました。しかも家庭に電気を届ける配電のほうは、逆に州営が9割。さらにムンバイでは、同じ地域に配電網が2本あり、2社が競合しているという日本には存在しない仕組みまで出てきました。そこにアンバニ、アダニ、タタという巨大財閥の名前が、次々と絡んできます。
夕暮れのインドを背景に、インド国旗、冷却塔と煙突が並ぶ火力発電所、送電鉄塔の列、太陽光パネル、遠くに高層ビル群を合成したイメージ画像

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インドの発電は、半分以上が民間企業

調べはじめて最初に驚いたのがこれです。インド電力省・中央電力庁(CEA)がまとめた区分別の設備容量を見ると、2026年3月末時点で民間企業の発電設備が全体の約52%を占めています。中央政府系(国営)と州政府系を足しても、半分に届きません。

インドでは発電・送電・配電のそれぞれに、中央政府系、州政府系、民間の企業が並んで存在しています。そのうち発電については、すでに民間がいちばん大きな担い手になっているということです。

インドの発電設備容量の内訳(2026年3月末時点)

区分 設備容量 構成比
民間 約278,632 MW 約52.3%
州政府系 約130,000 MW 約24.4%
中央政府系 約124,108 MW 約23.3%
合計 約532,740 MW 100%

再エネでも、民間の存在感が非常に大きい

差がいちばん大きいのが再生可能エネルギーです。同じ統計では再エネの民間分が19万1,656 MWに達し、中央政府系(1万3,181 MW)や州政府系(1万8,436 MW)を1桁上回っています。3者の合計に対する民間の比率は約86%で、再エネでも民間企業の存在感が非常に大きくなっています。

ただし、この統計の「再エネ」が何を含むかには注意が必要です。ここでの再エネは太陽光・風力・バイオマス・廃棄物発電・小水力(25 MW以下)をまとめた区分で、25 MWを超える大規模水力(5万1,415 MW)は別枠で集計されています。日本で「再生可能エネルギー」と言うときに含める大規模水力が入っていないので、再エネ全体における民間の比率ではありません

この「民間が発電を担う」構図があるからこそ、後半で出てくるアダニやリライアンスといった巨大企業グループが、電力の話に次々と登場してきます。

逆に配電は、州営が9割

ところが、家庭や企業に電気を届ける「配電会社(DISCOM)」になると構図が反転します。インド政府の政策シンクタンクNITI Aayogが米RMIと共同でまとめた配電部門の報告書などによれば、民間の配電ライセンス事業者がカバーしているのは人口のおよそ1割にとどまります。2019〜20年度の統計では、州政府所有の配電会社と州の電力局を合わせて、販売電力量・収入の約93%を占めていました。

つまり、

インドの電力の構図(ひとことで言うと)
  • 発電は民間が半分以上、再エネ(大規模水力を除く区分)でも民間が約86%
  • 配電は州営が9割で、民間が入っているのは一部の都市・地域だけ
  • つまり「電気をつくるのは民間、家庭に届けるのは州営」という二層構造になっている
  • なお日本の電力自由化も、小売は多数の会社が競争する一方で送配電網は地域ごとに一社が担っています。分野ごとに主役が違うという点は、電力自由化のしくみを思い出すと理解しやすいかもしれません。

    ムンバイの電力事情は、かなり特殊

    インドの電力が面白くなるのは、都市ごとに見ていったときです。なかでもインド最大級の都市ムンバイでは、4つの配電事業者が存在し、民間・市営・州営という3つの所有形態がそろっています。日本の感覚からすると、かなり特殊な状態です。

    ただし、市内のどの家庭も4社から自由に選べるという意味ではありません。事業者ごとに供給する区域が分かれています。島部(南ムンバイ)の大部分を供給しているのはムンバイ市が運営する公営事業体BEST(Brihanmumbai Electric Supply and Transport)、郊外を中心に供給しているのが民間のタタ・パワー(Tata Power)アダニ・エレクトリシティ(Adani Electricity)、周辺部がマハラシュトラ州営のMSEDCLです。つまりムンバイは「民間だけの街」ではありません

    ムンバイで電気を供給している主な事業者

    事業者 性格 供給エリア・規模
    BEST ムンバイ市営(公営) 島部(南ムンバイ)が中心
    タタ・パワー 民間(タタ・グループ) ムンバイ市全域のライセンスを持ち、実際の供給は約80万件超
    アダニ・エレクトリシティ(AEML) 民間(アダニ・グループ) 郊外の7区、約400 km²で300万件超
    MSEDCL マハラシュトラ州営 ムンバイ周辺部

    タタ・パワーはムンバイだけでなく、デリー、オディシャ州、ラジャスタン州などでも配電事業を展開しています。2026年3月期末時点で、同社の配電事業の顧客数はインド全体で1,310万件を超え、民間としては国内最大の顧客基盤です。

    同じ地域に配電網が2本ある「並行ライセンス」

    ムンバイでいちばん驚くのが、この仕組みです。ムンバイの郊外では、タタ・パワーとアダニ・エレクトリシティが同じ地域にそれぞれ自前の配電網を敷いて競合しています。これを「並行ライセンス(parallel licensing)」と呼び、最高裁の判断を経て成立した制度です。消費者は供給元を切り替えられます。

    日本の電力自由化は、1つの送配電網をすべての小売会社が共用する形です。電気の配電網そのものが二重にある地域は、日本にはありません

    日本でイメージするなら「光回線」が近い

    電気ではなく通信の話になりますが、日本にも同じ住所に別々の網が2本来ている例があります。光回線です。NTT東西のフレッツ光の網とは別に、関西のeo光、中部のコミュファ光、中国地方のメガ・エッグ、四国のピカラ光、九州のBBIQといった電力会社系の事業者が、自社の鉄塔や地中管路を使って独自の光ファイバー網を敷いています。提供エリアでは、フレッツ光系とこの独自網のどちらを引くかを選べます。ムンバイの並行ライセンスは、これを電気の配電網でやっている状態です。

    ちなみに、速い光回線として名前が挙がるNURO光はこの例に当てはまりません。NURO光はNTTのダークファイバー(光信号が通っていない未使用の光ファイバー)を借りて、そこに自社の通信規格と設備を載せる形なので、網そのものを別に敷いているわけではありません。

    ただ、並行ライセンスも良い面ばかりではありません。インドのシンクタンクORFは、この制度で期待された料金競争が必ずしも実現してこなかったと指摘しています。

    停電の少なさは改善している

    競争が料金にどこまで効いたかは議論があるものの、設備面の改善は数字に出ています。ORFの整理では、アダニ・エレクトリシティの技術的な送配電ロスは5年で約11%から約6%まで下がり、料金の請求効率は93.7%、集金効率は99.8%に達しています。

    ちなみに国別の電気料金水準や日本の位置づけについては、世界一電気代の高い国は?のページでまとめています。

    インドの電力会社には、あの「大富豪」たちも?

    インドの巨大企業と聞いて、まず名前が挙がるのがタタ(Tata)アダニ(Adani)、そしてリライアンス(Reliance)です。いずれも電力だけを専門にしている会社ではありません。自動車、通信、石油化学、インフラ、港湾、空港、再生可能エネルギーなど、さまざまな分野に進出する巨大企業グループです。

    ところが、インドの電力・エネルギーについて調べてみると、こうした企業が次々と登場します。たとえばアダニ・グループでは、火力発電を手掛けるアダニ・パワー、再生可能エネルギーを手掛けるアダニ・グリーン・エナジー、そして都市部の配電を担うアダニ・エレクトリシティなど、エネルギー分野に幅広く進出しています。

    インドの電力を調べているはずなのに、いつの間にか「インドの超巨大企業」の話になってきます。

    リライアンスからアダニへ、ムンバイの主役交代

    もうひとつ驚いたのが、いまムンバイで電気を供給しているアダニ・エレクトリシティに前身があったことです。しかもその前身は、リライアンスの電力事業でした。

    日本では「Reliance」と聞くと、通信サービス「Jio」などを展開するリライアンス・インダストリーズを思い浮かべる人が多いかもしれません。ただしインドの電力業界では、かつてReliance Energy(リライアンス・エナジー)という名前の会社がムンバイで発電・送電・配電を手掛けていました。1929年にBombay Suburban Electric Supply(BSES)として設立された会社が2004年2月にこの社名になり、2008年4月にReliance Infrastructureへ改称しています。つまり「Reliance Energy」は、2004年から2008年までの社名です。

    そして電力事業がどちらのアンバニ氏のものになったかというと、2005年、リライアンスをめぐる兄弟間の対立を経て、ムケシュ・アンバニ氏とアニル・アンバニ氏が事業を分割しました。ムケシュ氏はリライアンス・インダストリーズを率い、電力事業はアニル氏側に渡っています。

    その事業が売却されたのが2017年12月です。アニル氏側のReliance Infrastructureは、ムンバイの発電・送電・配電の一体事業をAdani Transmissionへ100%、約1,880億ルピー(18,800 crore ルピー)で売却する確定契約を締結しました。当時この事業は「Reliance Energy」の名で知られ、ムンバイ郊外の約400 km²で300万件近くに電気を届けるインド最大の民間一体型電力事業でした。買い手のAdani Transmissionは、2023年にAdani Energy Solutions(AESL)へ社名を変更しています。

    インドの電力会社を調べているだけなのに、アンバニとアダニという、インドを代表する大富豪の名前がつながってきます。なお「アンバニ側がエネルギー事業から撤退した」わけではありません。降りたのはムンバイの配電です。ムケシュ・アンバニ氏のリライアンス・インダストリーズは、太陽光発電設備や蓄電池、グリーン水素関連設備といった新エネルギー事業に巨額投資を進めています(詳しくは記事末のよくある質問で触れています)。

    なぜ巨大企業が電力に進出する?

    では、なぜインドの巨大企業はこれほど電力・エネルギー事業に力を入れるのでしょうか。大きな理由の一つが、インドの経済成長と、それに伴うエネルギー需要の拡大です。

    人口が14億人を超えるインドでは、経済発展や都市化にともなって電力需要が増加しています。工場、住宅、商業施設、データセンターなど、経済活動のほぼすべてに電力が必要です。電力は、単に「家庭に電気を届ける事業」ではありません。発電所、送電網、配電網、再生可能エネルギー、蓄電池、さらには原子力発電まで、巨大な投資が必要になる産業です。資金力とインフラ事業の経験を持つ巨大企業にとって、大きなビジネスチャンスでもあります。

    そしていま最も動きが大きいのが原子力です。インドが原子力発電を民間に開放する方針へ転じたことを受け、アダニ・グループは2026年6月24日の年次総会(AGM)で、新会社Adani Atomic Energyを通じて2035年までに最大10 GWの原子力発電容量を目指す方針を表明しました。同グループは用地の候補も特定済みとしていますが、場所や具体的な時期は公表していません。

    実現すればインド最大級の原子力事業者の一つになる規模で、報道によればタタ・パワーやリライアンス・インダストリーズも原子力の機会をうかがっています。ちなみに、発電方式ごとの特徴やそれぞれの長所・短所は発電方法の種類と比較のページで整理しています。

    日本の電力事情と比較してみると

    ここまで見てきたインドの仕組みを、日本と並べてみると違いがはっきりします。

    インドと日本の電力供給の違い

    項目 インド 日本
    発電の担い手 民間が設備容量の約52%で最大 大手電力会社と新電力・IPPが併存
    配電・送配電網 州営が中心。ムンバイ郊外では2社が自前の網を並行して持つ 地域ごとに一般送配電事業者が1社、全小売会社が共用
    会社を選べるか 並行ライセンス地域や一部の都市では選べる 2016年4月の全面自由化以降、全国どこでも選べる

    インドでは「住んでいる場所によって、そもそも選べるかどうかが変わる」のに対して、日本は全国どこに住んでいても電力会社を選べます。当たり前のように感じますが、インドの状況を見ると、これはかなり恵まれた条件です。

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    よくある質問(FAQ)

    分野によって大きく異なります。発電は民間の設備容量が2026年3月末時点で27万8,632 MW(全体の約52%)と半分以上を占めており、民間が最大の担い手です。一方で配電は州政府が所有する配電会社(DISCOM)が中心で、民間の配電ライセンス事業者がカバーしているのは人口のおよそ1割にとどまります。2019〜20年度の統計では、州政府系が販売電力量・収入の約93%を占めていました。つまり「電気をつくるのは民間、家庭に届けるのは州営」という二層構造になっています。

    選べる地域があります。ムンバイの郊外では、タタ・パワーとアダニ・エレクトリシティが同じ地域にそれぞれ自前の配電網を持つ「並行ライセンス(parallel licensing)」という仕組みで競合しており、消費者は供給元を切り替えられます。日本の電力自由化は1つの送配電網を全社が共用する形なので、配電網そのものが二重にある点は日本には存在しない方式です。ただしインドのシンクタンクORFは、期待された料金競争が必ずしも実現してこなかったとも指摘しています。

    その社名の会社は現存しません。1929年に Bombay Suburban Electric Supply(BSES)として設立された会社が、2004年2月24日に Reliance Energy へ、さらに2008年4月28日に Reliance Infrastructure へ社名変更しています。つまり「Reliance Energy」は2004年から2008年までの社名です。同社が持っていたムンバイの発電・送電・配電事業も、2017年12月にアダニ側へ売却されました。

    どちらも続けています。「アンバニ側はエネルギー事業から撤退した」というのは正確ではありません。ただし中身は分けて考える必要があります。ムケシュ・アンバニ氏のリライアンス・インダストリーズがグジャラート州ジャムナガルで進めているのは、太陽光発電設備・蓄電池・グリーン水素用の電解槽といった新エネルギー関連設備の製造を軸とした事業(Dhirubhai Ambani Green Energy Giga Complex)で、投資規模は75,000 crore ルピー(約7,500億ルピー)とされています。電気を売る「電力事業」ではなく、製造を含む新エネルギー事業という位置づけです。一方、アニル・アンバニ氏側には発電会社のリライアンス・パワーが残っています。アダニ・グループは2026年6月の年次総会で、2035年までに最大10 GWの原子力発電を目指す方針を表明しました。

    まとめ

    インドの電力を調べていちばん意外だったのは、発電設備の半分以上を民間企業が持っていることでした。しかも家庭に電気を届ける配電のほうは、逆に州営が9割。分野によって主役が入れ替わります

    この記事のポイント
  • 発電は2026年3月末時点で民間が設備容量の約52%=半分以上を占めている
  • 再エネ(太陽光・風力・バイオマス・廃棄物・小水力)でも民間が約86%で存在感が非常に大きい。ただしこの区分に25 MW超の大規模水力は含まれない
  • 配電は州営が中心で、民間の配電ライセンス事業者がカバーするのは人口のおよそ1割
  • ムンバイには市営のBEST、民間のタタ・パワーとアダニ・エレクトリシティ、州営のMSEDCLという4事業者が区域を分けて存在する
  • ムンバイ郊外は2社が自前の配電網を並行して持つ「並行ライセンス」で、日本にはない方式
  • 「Reliance Energy」は2004〜2008年の社名で、現在は Reliance Infrastructure
  • そのムンバイ電力事業は2017年12月に約1,880億ルピーでアダニ側へ売却された
  • アンバニ側もエネルギー事業から撤退したわけではなく、新エネルギー設備の製造や発電会社を続けている
  • アダニ・グループは2035年までに最大10 GWの原子力発電を目指している
  • 電力という身近なインフラを入り口にすると、インドを代表する大企業や大富豪、さらには再生可能エネルギーや原子力発電をめぐる今後の競争まで見えてきます。インドの電力事情は、思っていた以上にスケールが大きく、そしてかなりユニークでした。

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    Rei 電気・ガス担当

    電気・都市ガス・プロパンガスに関する記事を担当。再エネやカーボンオフセットなど、環境に関わるトピックについても執筆。多様で複雑な電気・ガス料金プランについて、わかりやすく役に立つ情報を届けることを心がけています。2019年セレクトラ入社。

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