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結論からいうと、日本の水道そのものが全面的に民営化されたわけではありません。一方で、2022年には宮城県で全国初となる水道事業のコンセッション方式が始まり、民間企業が水道施設の運営を担っています。

この記事では、麻生太郎氏の発言から水道法改正、宮城県の事例までを、財務省・厚生労働省・宮城県の公式資料をもとに整理します。

麻生太郎氏は「水道を民営化する」と発言していた

麻生太郎氏は2013年4月19日、当時の副総理兼財務大臣として米国のCSIS(戦略国際問題研究所)で講演しました。財務省が公開する講演資料によると、日本の水道について次のように述べています。

発言日 2013年4月19日
発言場所 米国CSIS(戦略国際問題研究所)での講演
発言内容 「この水道はすべて国営もしくは市営・町営でできていて、こういったものをすべて民営化します。いわゆる学校を作って運営は民間、民営化する、公設民営、そういったものもひとつの考え方に、アイデアとして上がってきつつあります」

この発言は、2018年に参議院へ提出された質問主意書にも記録されています。したがって「麻生太郎氏が水道の民営化について発言した」というのは事実です。

ただし、ここから「麻生太郎氏が日本の水道を民営化した」と結論づけるのは正確ではありません。

水道法改正で民間企業が水道運営に参入しやすくなった

2018年12月、水道法の改正法が成立・公布され、2019年10月に施行されました。改正の背景として厚生労働省が挙げていたのは、人口減少に伴う水需要の減少や、水道施設の老朽化などです。

ここで導入されたのが「コンセッション方式」です。水道施設の所有権を自治体に残したまま、民間事業者に運営権を設定する仕組みで、次のような役割分担になります。

  • 水道施設の所有:自治体
  • 水道事業者としての立場・最終的な給水責任:自治体
  • 施設の運営:民間企業が担うことが可能
厚生労働省の見解

厚生労働省は、2018年の水道法改正について「水道事業自体を『民営化』するものではありません」と説明しています。地方公共団体が水道事業者としての位置づけを維持し、最終的な給水責任を負う仕組みだからです。

日本の水道は実際に民間企業が運営している:宮城県の事例

民間企業が水道を運営するケースは、実際にあります。代表的なのが宮城県の「みやぎ型管理運営方式」です。

開始 2022年4月1日(水道分野では全国初のコンセッション方式)
契約期間 20年間
運営企業 株式会社みずむすびマネジメントみやぎ(メタウォーターなど10社が出資)
民間企業が担う業務 浄水場などの運転・維持管理、設備の修繕・更新
施設の所有権 宮城県(変わらず)

つまり、「水道施設を民間企業に売却した」のではなく、「施設を県が所有したまま、運営を民間企業に任せる」という仕組みです。宮城県は、水道料金の決定権も県側に残していると説明しており、民間企業には料金改定の権限がありません。

民間運営で水道料金は安くなった?

「水道民営化」を考えるうえで、特に気になるのが料金への影響です。宮城県では、2024年度(令和6年度)から水道用水の供給単価が引き下げられました。

宮城県の水道用水供給単価改定(令和6〜10年度)

事業名 改定前(令和2〜5年度) 改定後(令和6〜10年度)
大崎広域水道事業 124.0円/㎥ 122.4円/㎥(-1.6円)
仙南・仙塩広域水道事業 126.1円/㎥ 119.1円/㎥(-7.0円)

ただし、これは一般家庭が水道局に支払う水道料金をそのまま同じ金額で値下げしたという意味ではありません。宮城県が行っているのは、市町村などに水道用水を供給する「卸売」に近い事業です。家庭に水道を届け、最終的な水道料金を決めるのは各市町村であり、宮城県の供給単価引き下げが、そのまま各家庭の水道料金に同じ金額で反映されるわけではありません。

民間運営でどれくらいコストを削減できる?

宮城県は「みやぎ型管理運営方式」によって、20年間で約337億円の事業費削減を予定していました。2025年10月に公表された導入3年後の検証では、物価高騰などを踏まえても、現時点で20年間で約356億円の削減が見込まれるとしています。

つまり、少なくとも宮城県の事例では「民間企業が運営する→必ず水道料金が上がる」とは言えません。むしろ宮城県は、民間のノウハウを活用することでコストを抑え、水道料金の値上げを抑制することを狙っています。

「民営化すると水道料金が複雑になる」は本当?

現在の宮城県のようなコンセッション方式では、民間企業が自由に水道料金を設定できるわけではありません。宮城県では、水道料金は県と市町村の協議を経て県議会の議決によって決定され、運営権者には料金改定の権限がありません。

そのため、「民間企業が水道を運営するようになったから、電気やガスのように複雑な料金プランが登場する」という状況には、現在の制度上なっていません。一方で、もし将来的に水道事業の民間への権限移譲がさらに進み、料金設定の自由度が高まれば、料金体系が多様化する可能性はあります。ただし、「完全民営化すれば必ず料金が複雑になる」と断定することはできません。水道は生活に不可欠なインフラであるため、完全民営化した場合でも、料金規制などの公的なルールを残すことは可能だからです。

なぜ水道の民間活用が進められた?

背景には、麻生氏個人の考えだけでなく、日本の水道事業が抱えていた構造的な問題があります。厚生労働省は、水道施設の老朽化や人口減少による水需要の減少を、水道事業の大きな課題として挙げています。

  • 人口減少:利用者が減ることで水道料金収入が減少し、老朽化した施設の更新が難しくなる
  • 水道施設の老朽化:高度経済成長期に整備された施設が一斉に更新時期を迎え、費用が増加する
  • 人材不足:自治体職員が減少するなか、水道事業を専門的に担う人材の確保が課題になっている

こうした問題に対して、民間企業の技術や経営ノウハウを活用するという考え方が出てきました。

よくある質問

はい、事実です。麻生太郎氏(当時副総理兼財務大臣)は2013年4月19日、米国のCSIS(戦略国際問題研究所)での講演で「この水道はすべて国営もしくは市営・町営でできていて、こういったものをすべて民営化します」と発言しました。この発言は財務省が公開する講演資料や、2018年に参議院へ提出された質問主意書にも記録されています。

いいえ。日本の水道事業が全面的に民営化された事実はありません。2018年の水道法改正で導入されたのは、水道施設の所有権を自治体に残したまま運営権のみを民間企業に設定する「コンセッション方式」です。厚生労働省も、この改正は「水道事業自体を『民営化』するものではない」と説明しています。

売却はしていません。宮城県は2022年4月から「みやぎ型管理運営方式」により水道施設の運営を民間企業(みずむすびマネジメントみやぎ)に委託していますが、施設の所有権・最終的な給水責任・水道料金の決定権はすべて宮城県に残っています。20年間の運営権を設定した契約であり、施設そのものの売却ではありません。

少なくとも宮城県の事例では、必ず上がるとは言えません。宮城県が市町村へ水道用水を供給する単価は、2024年度(令和6年度)に大崎広域水道で1.6円/㎥、仙南・仙塩広域水道で7.0円/㎥引き下げられました。また、20年間の事業費削減効果は当初予定の約337億円から、2025年10月の3年後検証時点で約356億円に上振れしています。ただし水道料金プランを最終的に決めるのは各市町村であり、民間事業者に料金改定の権限はありません。

まとめ:日本の水道は「完全民営化」されていない

2013年 麻生太郎氏がCSISで水道の民営化について発言
2018年 水道法改正が成立
2019年 改正水道法が施行
2022年 宮城県で全国初の水道コンセッション方式が開始
2024年 宮城県で水道用水の供給単価を引き下げ
2025年 宮城県が導入3年後のコスト削減効果を公表

麻生太郎氏は2013年に、水道を「すべて民営化する」という趣旨の発言をしています。その後、2018年の水道法改正によって、水道施設の運営権を民間企業に設定するコンセッション方式が制度化されました。ただし、現在の日本の制度は、水道施設を民間企業に売却する「完全民営化」ではありません。

宮城県では2022年から民間企業による水道施設の運営が始まっていますが、施設の所有権や料金決定権、最終的な給水責任は県側に残されています。料金についても、宮城県では2024年度から水道用水の供給単価が引き下げられており、少なくとも「民間企業が運営すると水道料金が必ず上がる」とは言えません。

今後、水道施設の老朽化や人口減少が進めば、自治体だけで水道事業を維持することが難しい地域が増える可能性があります。「水道を誰が運営するのか」「料金を誰が決めるのか」は、今後も私たちの水道料金に関わる重要な問題になりそうです。