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何が起きたのか

今回の書類送検でわかっていること

2025年10月、東京都文京区の不忍通りからJR駒込駅にかけての区間で、回送中の都営バスが一般車両に対し、具体的な危険がないのにクラクションを鳴らし、パッシングをしたとされます。バス車内のドライブレコーダーには、運転手の「バカヤロー」という声が記録されていました。

発覚のきっかけは、あおり運転の被害を受けたとみられる人からの110番通報でした。

運転手は東京都交通局巣鴨自動車営業所に所属していた当時30代の男性で、2026年5月に運転免許取り消しの行政処分を受けています。バスは乗客を乗せていない回送中でしたが、回送中であっても、道路交通法の適用が変わることはありません。東京都交通局は「事実確認を進めた上で、厳正に対処する」とコメントしています。

都営バス運転手による妨害運転の経過
時期 起きたこと
2025年10月 東京都文京区で、回送中の都営バスが一般車両にクラクション・パッシング。被害者とみられる人が110番通報
2026年5月 運転手が免許取り消しの行政処分を受ける
2026年9月11日 警視庁駒込署が道交法違反(妨害運転)容疑で書類送検

*出典:時事通信(2026年9月11日)、東京新聞(2026年9月11日)

クラクションを鳴らし返してはいけない理由

今回の容疑は、暴力でも幅寄せでもなく、クラクションとパッシングでした。この2つが妨害運転の対象となり得るのは、いずれも妨害運転罪の対象となる違反行為として定められているためです。

妨害運転罪は、2020年6月30日施行の改正道路交通法で創設され、対象となる違反行為が10類型に限定して定められています。神奈川県警が公表しているリーフレットが、その10類型と条文をまとめています。

妨害運転(あおり運転)にあたる10類型の違反行為と根拠条文、および被害を受けた場合の対処を示した神奈川県警察のリーフレット1ページ目
妨害運転にあたる10類型の違反行為と根拠条文(神奈川県警察「妨害運転は犯罪です!!」リーフレット1ページ目/画像をクリックすると出典のPDFが開きます)

*出典:神奈川県警察「『妨害運転』は、犯罪です!!」

10類型のうち、「不必要な反復したクラクション」は警音器使用制限違反(道路交通法第54条第2項)、「不必要な継続したハイビーム」は減光等義務違反(同第52条第2項)、「不要な急ブレーキ」は急ブレーキの禁止違反(同第24条)にあたります。いずれも、あおられた側が反撃として行ってしまいやすい行為です。クラクションについては、道路交通法がそもそも次のように定めています。

車両等の運転者は、法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合を除き、警音器を鳴らしてはならない。ただし、危険を防止するためやむを得ないときは、この限りでない。

クラクションは、鳴らしてよい場面が法令で定められており、それ以外では鳴らしてはならないというのが原則です。相手への抗議のために鳴らすことは、この例外には当たりません。急ブレーキも同じで、第24条は「危険を防止するためやむを得ない場合を除き」急ブレーキをかけてはならないと定めています。

そのため、あおられた側であっても、反撃として違反行為をすれば、妨害運転罪に問われることがあります。罰則は、危険性に応じて2段階に分かれており、交通の危険を生じさせるおそれのある運転は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、違反点数25点(欠格期間2年)、高速道路で他の自動車を停止させるなど著しい交通の危険を生じさせた場合は5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、違反点数35点(欠格期間3年)です。

妨害運転罪の2段階の罰則と違反点数・欠格期間、および妨害運転の被害に遭わないための7項目を示した神奈川県警察のリーフレット2ページ目
妨害運転罪の罰則・違反点数と、被害に遭わないための運転(神奈川県警察「妨害運転は犯罪です!!」リーフレット2ページ目/画像をクリックすると出典のPDFが開きます)

*出典:神奈川県警察、警察庁「危険!『あおり運転』はやめましょう」

違反点数25点は、累積を待たずに一度で運転免許が取り消される水準です。今回の運転手が刑事手続きに先立って運転免許を取り消されているのは、この仕組みによるものです。

あおり運転をされたときにすること

警察庁は、あおり運転の被害にあった場合の行動を次のように示しています。

サービスエリアやパーキングエリア等、交通事故に遭わない場所に避難するとともに車外に出ることなく、ためらわずに110番通報してください。

この一文には、3つのポイントが示されています。

  • 交通事故に遭わない場所へ避難する。高速道路の本線や路肩での停車は追突される危険が高いため、サービスエリアやパーキングエリアなどへ避難します。一般道では、人目のある店舗の駐車場や交番などが候補になります。
  • 車外に出ない。相手が車から降りてきて怒鳴ってきても、窓を閉め、ドアを施錠したまま車内にとどまります。警察庁も「車外に出ることなく」と明記しています。
  • ためらわずに110番通報する。相手車両のナンバー、車種、色、現在地(高速道路ではキロポスト番号)などを伝えます。

警察庁はあわせて、ドライブレコーダーの装着と活用を推奨しています。今回の事件でも、運転手の「バカヤロー」という声が残っていたのはバス車内のドライブレコーダーでした。あおり運転では、映像や音声が証拠になることがあります。被害に遭った直後は、録画データの上書きを防ぐため、手動録画ボタンを押すなどしてデータを保存してください。

*出典:警察庁「危険!『あおり運転』はやめましょう」

自動車保険でできること、できないこと

あおり運転による被害では、通常の事故とは補償の受け方が異なることがあります。

できないこと

  • 相手の保険から賠償を受けられないことがある:自動車保険や共済には、運転者の故意による損害を補償の対象外とする免責の定めがあります。あおり運転による事故が故意によるものと評価されると、相手に保険があっても保険金が支払われない場合があり、損害賠償を相手本人に請求することになる場合があります
  • 自分の保険会社は示談交渉ができないことがある:被害者側の過失が0の事故では、保険会社による示談交渉サービスを利用できません。弁護士法第72条が、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を扱うことを禁じているためです。被害者は、相手方や相手方の保険会社と直接やり取りする必要があります
  • 車両保険を使うと等級が下がる場合がある:相手が確認できない当て逃げであっても、車両保険を使って修理した場合は翌年度の等級が下がる場合があります

*出典:こくみん共済 coop「あおり運転による事故、保険や共済で補償される?」、あいおいニッセイ同和損保、東京海上日動、e-Gov法令検索「弁護士法」第72条

できること

  • 人身傷害補償保険:けがの治療費などを、相手からの賠償の有無や過失割合にかかわらず、補償額の範囲内で先に受け取れる場合があります
  • 車両保険:相手から賠償を受けられない場合でも、自分の車の修理費について保険金を受け取れる場合があります。ただし、車両保険の利用によって翌年度の等級が下がる場合があります
  • 弁護士費用特約:保険会社が示談交渉できない過失0の事故でも、弁護士に示談交渉などを委任できます。1事故につき1名あたり300万円、法律相談費用は10万円を上限とする商品があります。上限額や対象となる事故・費用は、保険会社や商品によって異なり、弁護士への委任や法律相談の前に、保険会社への連絡が必要です

*出典:東京海上日動「弁護士費用等を補償する特約」、こくみん共済 coop

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まとめ

  • クラクションとパッシングだけでも、妨害運転の対象となる場合があります。今回の書類送検の容疑はこの2つで、どちらも妨害運転罪の10類型に入っています
  • 反撃としてクラクションを鳴らすと、こちらも違反行為を問われる可能性があります。道路交通法はクラクションを原則として鳴らしてはならないと定めており、違反点数25点は、累積を待たずに一度で運転免許が取り消される水準です
  • 避難し、車外に出ず、110番通報する。警察庁が示す順番はこの3つで、加えて、ドライブレコーダーの映像が重要な証拠になることがあります
  • 相手の故意による事故では、相手の保険から補償を受けられないことがあります。過失が0の事故では、自分の保険会社が示談交渉を行うことはできないため、弁護士費用特約が付いているかを確認してください

よくある質問(FAQ)

やめてください。道路交通法第54条第2項は、法令で鳴らすことが定められている場合と、危険を防止するためやむを得ないときを除いて、警音器を鳴らしてはならないと定めています。相手への抗議は、このどちらにも当たりません。パッシング(減光等義務違反)と不必要な急ブレーキ(急ブレーキの禁止違反)も含めて、これらはいずれも妨害運転罪の対象となる10類型に入っています。つまり、あおられた側であっても、反撃として違反行為をすれば、妨害運転罪に問われることがあります。妨害運転罪は「交通の危険のおそれ」の段階でも違反点数25点で、一度で運転免許の取り消し(欠格期間2年)となります。

通常の事故であれば、相手の対物賠償責任保険から支払われます。ただし、相手の行為が「故意」と判断された場合は事情が変わります。自動車保険や共済には、運転者の故意による損害を補償の対象外とする免責の定めがあるため、悪質なあおり運転による追突事故では、基本的に相手側の補償で被害者は補償されません。この場合、賠償は相手個人の資産から回収することになります。自分が人身傷害補償保険や車両保険を付けていれば、相手からの賠償の有無や過失割合にかかわらず、補償額の範囲内で先に受け取ることができます。ただし車両保険を使うと、翌年度の等級が下がる場合があります。

使えます。むしろ、こちらに過失がまったくない事故でこそ必要になります。弁護士法第72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を扱うことを禁じているため、自分に賠償責任が生じない事故では、契約している保険会社が代わりに示談交渉をすることができません。弁護士費用特約を付けていれば、損害賠償請求は1事故につき1名あたり300万円まで、法律相談費用は10万円までを上限とする商品があります。弁護士への委任や法律相談の前に保険会社への連絡が必要で、上限額や対象となる事故・費用は、保険会社や商品によって異なります。

出典

本記事の情報は2026年9月11日時点のものです。書類送検は捜査機関が事件を検察官に送る手続きであり、起訴・有罪を意味するものではありません。自動車保険・共済の補償内容に関する記述は一般的な傾向の解説であり、実際の補償可否・支払額・特約の限度額は契約中の保険会社の約款・重要事項説明書、および査定によります。最新の内容は各社の公式サイトでご確認ください。